DIALOGUE W/ TAKURO MATSUI
日常と異世界のモチーフを色鮮やかに描くアーティスト・イラストレーター。目を引く華やかな色使いと曲線のディテールは作品に躍動感をもたらし、デジタルとアナログの調和は人々の感情を揺さぶる。
DIALOGUE WITH
TAKURO MATSUI ・ 松井琢朗
アーティスト: TAKURO MATSUI (T)
参加メンバー:SALINA (S), MAKU (M)
背景 / FIRST THINGS FIRST
M: まずは自己紹介からお願いします。
T: 多摩美術大学グラフィックデザイン学科を卒業した後ベンチャー企業のデザイン部門に勤務し、イラストレーターになりました。絵は幼稚園の頃から描いていました。
S: 幼稚園の頃から周りの人たちに比べて描くことが好きでしたか?
T: そうですね。褒めてもらえたのもあって、自由に描いていました。中学生からアートに触れる機会があってそういう世界があると知りました。最初の影響はスケートボードのアートからで、スケートボードカルチャーとパンクロックの自由なカルチャーに触れる機会がありました。かちっとした絵というよりは「ヘタウマ」のようなスケーターの一発書きみたいな絵に影響を受けました。そこからアカデミックの勉強をして色々と中和されて現在に至っています。
M: グラフィックデザインの学科は最初から目指していましたか?
T: 特に目指してはいなかったのですが、友達がそういう学科があると教えてくれて絵を描くのが好きだったので大学進学の時に目指しました。グラフィックデザインにものすごく興味があったわけではないのですが、仕事にするならそれかなと思いました。
M: グラフィックデザインには魅力がありますよね。私も物心がついた頃から興味を持っていました。
T: 崩れた絵が好きな中、グラフィックデザインを学んでいたのですがどちらもあまり自分の中で収まりがよくなくて、現在はその中間を探ってるという感じです。
S: グラフィックデザインの学科では基本何を勉強していましたか?
T: ひたすら絵を描いたり、構図や配色などの勉強をしていました。
S: スケートボードのアートのように殴り描きしたように見えるけど、実は背景には配置や配色の基礎がきちんとある。沢山の要素を入れるとごちゃごちゃに見えてしまうかもしれないけど、松井さんの作品はそうではないのが魅力的ですね。
T: あまり洗練されすぎないようにラインは描き直さず一発で描いています。あとは色選びでバランスをとるようにしています。
S: 恐竜はなぜ描こうと?
T: 恐竜は具体的な理由もなく漠然と描いていました。現実にいたかわからないけれど実在してるという曖昧な感じに子供心をくすぐられました。
M: 恐竜の他にも可愛いおばけが登場していますね。
T: そうですね。色々な状態が中和されてる状態が良いという認識があります。現実と非現実。色でも混ざってる色とか、中間であると入り込みやすいのかなって。主張するよりは余白を。イラストを描く人はみんな大事にしてるかもしれないですけど、少しわからないくらいに置いておくことと主張しすぎないことがこだわりですね。
M: はっきりとわからないのも面白いですね。人が地面に横たわっている作品も不思議とハッピーなオーラを感じさせてくれますね。
T: 暗くないような状態を目指しています。あまりハツラツとした笑顔ではなくて真顔だけど嫌ではないくらいの印象がちょうど良いかなと思っています。
作品について / ABOUT THE WORK
S: 絵のモチーフはどのように決めていますか?
T: 感覚的ですが、ぐっときたものを割とゆるいノリで描いています。そこから塗りや配色でしっかりとバランスをとっています。適当な線としっかりとした配色や塗りのギャップが大切です。あとは色が全体的に綺麗なら良いなと思っています。
S: 最初にデジタルで描いたものをアナログで再現していると聞きました。
T: そうですね。PCで描いたものをアクリルで再現しています。デジタルとアナログ感を混ぜて中和することで不思議な見え方になるように意識しています。逆にグラフィックデザインの作成中にそういうことを意識していますか?
M: 個人的に調和やバランスの感覚に関しては経験が足りていないなって感じることはあります。コンセプトを考えたりするのは好きですけど、アウトプットの調和はまだまだですね。頭の中では仕上がっているけど実際にそれを視覚化してみたら全然調和が取れていないって感じることはあります。
T: グラフィックデザインを学ぶ中で人の心を動かすコンセプト、全体の共感を得ることや幅広い影響力を与えるのが難しく感じていました。ミクロの世界でしか考えることができず、イラストに落ち着いたのでグラフィックデザイナーは本当に尊敬してます。
M: そうなんですね。私は逆にミクロの世界に強い尊敬があります。(笑)ミクロの世界を完全に作りきれるイラストレーターの能力は正直羨ましいです。
T: それぞれ違う魅力がありますよね。
M: ミクロの世界を作り上げるには集中力と忍耐力が必要ですよね。あとは没頭できることも大事ですよね。
T: そうですね。塗るのが好きなので苦ではないです。あとは、「人からどう見られるか」という部分を放って置かないためにも、絵自体をどう綺麗に見せるかに立ち戻りながら描いています。
M: 強い考えやコンセプトが頭の中にあったとしても、作れないものは作れない。絵におばけを登場させてみたりする感覚的な部分に魅力を感じています。無理矢理何かを伝えようとはしていないけれど、観る人によっては伝わるものがあるのが素敵ですね。
T: 意味不明だなと言われれば、そうかもしれない。(笑)昔、触れてきたスケートボードのカルチャーの意味不明な部分が魅力に感じることもあります。
技法 / HOW DO YOU DO IT
S: 一つ気になっていたことがあります。松井さんが描いている細くて今にも消えそうな線にはどういった意味がありますか?
T: 鋭いですね、これは実は失敗してるんですよ。(笑)失敗をそのままにしているのは、予想外のものは全部受け入れていくほうが面白いと思っているからです。
S: 他の作品にも沢山細かい線があります。どのような役割があるのでしょうか?
T: 線を入れているものと入れていないものを比較すればわかりますが、全体的に立体的になるので入れています。ハッチングみたいなイメージです。例えば肩がななめになっている状態で線が乗っていないとのっぺりとしてしまいます。説明に近いのかなと思います。
M: そう言われると、松井さんの作品はそれぞれ一コマのシーンを切り取った感じがします。全体的に動きがあるような。
T: それは意識しているかもしれないです。
M: 静画だけど動きがあるように見えます。
T: そうですね。動きとか奥行きは意識しています。観ていて楽しめるように、動きを出すようにしています。
影響 / INSPIRATION
S: 制作している時は楽しさや焦りなど、どのようなことを感じて描いていますか?
T: 大体焦りを感じる時は、絵が良くならない時です。「なんで良くならないんだろう」って色を塗り直したりとかします。良くなるとやっぱり楽しいですね。
S: 松井さんにとって絵を描き続けるモチベーションは?
T: 人に褒めていただけるのはもちろん嬉しいですが、個人的に「あ、良くなった」みたいな細かいことがモチベーションとしてある上で淡々と描いています。
S: 作業自体はいつしていますか?
T: 基本は夜ですね。あまり音がない方が良いなと思っています。
S: 音楽とかは流さないですか?
T: 気づいたら無音が多いです。どちらかに集中してしまうので、あまり聴かないですね。
M: 絵に行き詰まった時には何をしていますか?
T: 散歩に行くか、映画を観るかですね。
S: 美術館に行ったりはしますか?
T: 行くのは好きですけど一人で観たいと思ってしまうのであまり行かないです。展示は好きなので、本当に観たいものがあれば行きます。影響を受けやすいので映画館には行かないし、美術館も気が散ってしまうような気がします。
M: 映画の世界観に影響を受けることはありますか?
T: 多少はあります。映画に出てくる街とか海外の部屋の雰囲気とか良いですね。そういうところにグッときたりして影響されたりしているのかもしれないですね。
S: 松井さんの少し前の作品は海外の映画のワンシーンのようで可愛いですね。
T: 実は海外に行ったことがないです。旅行気分になれるので海外の要素がある絵を描くこともあります。
S: 一番行きたい国は?
T: ブラジルに行きたいですね。
S: アートとかは関係なくですか?
T: アートを観るならアメリカに行ってみたいですが、ブラジルは音楽だったりと謎の魅力があります。ブラジルにはボサノバなどがあり、速い音楽が主流だった時代に遅いテンポで高度な不協和音だったりとかポップじゃないけどそれが主流になる。そういったカウンターカルチャーが好きです。
M: カウンターカルチャーの部分は実際に現地に行って経験してみたいですね。海外は色々な刺激がありますが、色々な国に行って結局は自分の世界観が一番良いってこともありそうですよね。(笑)
T: そうですね。自分が今まで見てきたものにピタッと合わないから絵を描く。それによって良い具合に持っていきたいというモチベーションもあると思います。これだっていうものがないから絵を描いてそれを作っているのかもしれません。
これからについて / A POSITIVE BALANCE
M: 松井さんはイラストレーターとして「調和」を大切にしていることを改めて感じました。
T: そうですね。尖っているものだけではなくて全体的に調和したいという思いはあります。
M: 尖りたくないけど、尖らないと「普通」になってしまう...。うまい具合に真ん中にたどり着くのって意外と難しいのかもしれないですね。
T: 尖っているものを好む人もいる。尖っているものも素晴らしいですけどね。
M: 「尖っている」ことの定義も人によりますしね。
T: でも潔くしていきたいなっていう思いもあります。そういう意味で要素を減らして、もっとパンチ力があるものにしたら良くなるかなって思ったり。少し漠然としていますけど。要素が少ないけど、シンプルで美味しい。そういうものを目指したいなとも思います。
M: 周りの人の意見で、「こういうのが好き」って言われたら左右されるほうですか?「こういう絵が好き」って言われたら逆をやりたくなるとか、人によってそれぞれ捉え方があると思いますが、松井さんはどうですか?
T: 根本的に我が強い方だと思っているので、調和したいと思っています。人の話を聞くようにしています。我が強すぎるのでなるべくフラットにしていきたいと思っています。
S: なるほど。我が強いから調和を大切にしているということですね。
T: そうですね。それは大事だと思います。人の意見で流されるのはいいことだと思っています。
M: 流されにくい性格が根本にあることを認識して調整しようとしている姿勢に尊敬します。
T: 癖が残りますけどね。
M: その癖も魅力の一部だと思います。どちらかというと調和がベースにあって、我を強く見せたいというのは個人的によく聞くような気がするのでそれとは逆なのが面白いです。
T: 基本的に自分の要素と真逆に行った方が良いというのが僕の考えです。その方がハッピーになれるような気がします。
S: 中間地点の程よいところに落ち着けたらいいですね。
T: そうですね。自分のやりたいことで突っ走ってうまく行ってるならそれはそれでいいとも思います。
M: 最後に、今後イラストレーターとして新たに挑戦したいことなどありますか?
T: 何らかの形で人と関わる状態にしていきたいです。図の説明だったり役に立つ方向でコミュニケーションの要素を強めたいと思っています。
S: スケートボードの裏に絵を描いたりとかは...?
T: それは是非やりたいです!
Fin.
TAKURO MATSUI ・ 松井琢朗
日常と異世界のモチーフを色鮮やかに描くアーティスト・イラストレーター。目を引く華やかな色使いと曲線のディテールは作品に躍動感をもたらし、デジタルとアナログの調和は人々の感情を揺さぶる。
1989年生まれ
イラストレーター
多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業
2021.12.10-12 solo exhibition "PAIR"
2021.06.22-27 1st solo exhibition
東京TDC入選
DIALOGUE W/ はアーティストとの対話の記録です。基本ノーカットで行い、編集も最小限に実際の対話のトーンや内容を残しています。
作品やプロフィールのみでは知ることのできない、アーティストの素の姿。気さくな対話から生まれる思いがけない話をお楽しみください。