DIALOGUE WITH SAKI MATSUMURA

 

カラフルな色彩を奥へ前へ行き来するようなレイヤーと立体感を複雑に持つ松村咲希の絵画作品は現実世界の風景には感じえない多次元的な景色や感覚へのイマジネーションをも膨らませます。

 

 

DIALOGUE WITH

松村咲希


アーティスト:SAKI MATSUMURA (S)
参加メンバー: MAKU (M), SALINA (Y) 
インタビュー場所:作家アトリエ

 

M まずは自己紹介からお願いします。

S 1993年生まれの魚座、血液型はO型です。出身は長野県野沢温泉村、雪国の生まれで大学は京都芸術大学に進学しました。それからはずっと京都にいます。2016年に大学院を修了してそのままこのアトリエで制作しています。

Y 大学院を卒業してから今に至るまでの経緯はどういったものだったのでしょうか。

S そもそも大学院に進むことで私は就職を諦めていて、作家になりたくて大学院に進みました。卒業する半年前くらいから制作を続けるための場所を色々と探していてこの場所を見つけました。最初は後輩と半分づつ使っていたのですが、4年くらい続けていると状況とかも色々と変わっていき、現在は一人で使用しています。ここの建物は元々は美術専門学校だったんです。専門学校だったところの教室を割って自由に貸し出している場所なんです。壁も釘打っていいし、汚してもいいし、天井も高いし。制作ではシルクスクリーンを使うんですけど、版を洗ったりするための水道とかがあってクリエイター向けの物件になっています。専門学校が廃墟になってリノベして貸し出して、最初の年に私が入って今まで使っているという感じです。

 

 

M 現在のスタイルに至るまではどういった道のりだったのでしょうか?

S 学部が油画コースという油絵を勉強するコースで油絵をずっと勉強してきました。今の絵のようではなく動物など具象画を描いたりしていて、卒業制作も油絵でした。大学院に入る時にまだ学生だしもっと違う表現を探究したくなって一旦全く方向性を変えて抽象画に進みました。

M 探求する中で割と最初の方からこういうスタイルにたどり着いたのでしょうか?

S 紆余曲折ありつつですね。違うことをやってみたいというのは簡単なんですけど、何をしようかってすごく悩みました。大学院に進んだ頃は色々な作家を真似して描いてみたりとか。ピータードイクがしているような具体的なことを描きつつ絵の構図が抽象的になってたりとか。カヌーが湖で浮いていて、下が湖の色で上が森の色ってパキッと分かれていたり。真似しているうちに、絵って具体的なモチーフを描くだけじゃないんだって気づきました。そういった気づきが視覚的な面白さとか見る人に与える効果を生み出せるジャンルで面白いなって転向するきっかけになりました。 

M 「視覚的な面白さ」ってなんだか魅力的ですね。

S そうですね。それはかなり大きな要素です。惑わされたりとか視線が誘導されちゃったりとか。

Y 立体に見えるものが絵の中に見えるって不思議な感覚ですよね。色々な見方ができるような気がしています。

 

 

M 壁の写真がそのまま絵に乗っている感じに見えるような気がします。

S そうですね。これは大学院を卒業した年に描いた絵です。この絵を描いているときに盛り上げた絵の具の技法を見つけたりしていました。

 

 

Y このオレンジと緑のところもよくみると下が細かくぼこぼこしていますね。

S 絵の具をモリモリと塗っています。モデリングペイストというものを使っています。粘土みたいな感覚です。普通の絵の具って分厚く塗りすぎると割れちゃったりしてしまうんですけど、これはそのまま乾いてくれるのでたくさん塗っても全然大丈夫なんです。

Y この盛り上がり具合はどうやって決めているんですか?

S この外郭はと始めから決めていて、あとはその範囲以内に投げつけたりして、コントロールが多少効く程度にしています。

M 制限の中で自由にやるという感じなんですね。

外郭を決めてしまっているから、はみ出す部分に乗った絵具は取り去ってしまいますが、ぼこぼこするところは考えています。けれど最近の絵に関しては、はみ出した部分も絵具を少し残すようにしています。私の絵を見る人がルールがわかってきたと思った時に、はみ出している部分があると前後関係が急に少しだけ複雑になると新たな面白さが出てくると思います。

 

 

Y 現在アトリエで、新しく製作されている絵のテーマが気になります。私から見るとなんとなくですが惑星っぽいです。

S 今回の新しい絵には「環世界」という考え方があります。1930年代のドイツの生物行動学の人によると私たちは自分の主観を通して世界を見ている。例えばコバエが来たら、今座っている物を「椅子」だとは思わない。それぞれの世界の感覚って自分を通して見ていて、シャボン玉の世界でみんな生きているって例え方をしています。決してそれはお互いに分かり合えはしない。でもみんな一つの世界に生きていて、関係性を結んで生きている。コロナになってみんな孤独になっていて、繋がりたいんだけど「一人」っていうのは変わらない。そういった感覚とリンクさせています。あまり希望のあるような話ではないんですけど、星座みたいに繋がったりする感じです。

M 哲学的な考え方や物の見方が絵に潜んでいるのはとても興味深いです。なんだかお互い分かり合えないけど、一人ではないということに勇気つけられるような気がします。

S そうですね。私もそう感じています。同じような円形だけど、みんなそれぞれ好きなの選んでください、っていう感じですね。(笑)

Y 裏話を聞くと絵を見る目が変わってきますね。 

M 松村さんにとって好きな色、それか使いやすい色ってありますか?

S 最近は割とオレンジが多く出るなって思っています。無意識的にですが。

Y オレンジがない作品もオレンジがあるような気もします。オレンジの印象が良い意味で強くて、発色が綺麗ですね。緑との相性も特徴的ですね。

S そうですね。オレンジに対して緑を合わせることはよくします。色自体は、スプレーペイントを使っています。スプレーは自由に混色できないので決まったものを使っています。固定されている選択肢の中から選んでいくという感じです。

Y ここの垂れている感じの表現はスプレーで?

 

 

S そうです。スプレーを使っているのはすごくフラットに塗れるからです。絵の具で刷毛を使って塗ると、刷毛目がどうしても出て、描いた感じが出るのが嫌で。そしてスプレーを使っていると垂れというエラーができるのがわかってきました。フラットの世界の中でも奥行きが出るような要素でもあります。垂れって重力の記録みたいで、私がどう描いていたかがわかるという痕跡でもあるような気がしています。面白いですよね。

Y 青と赤のグラデーションも綺麗ですね

M ムラのないグラデーションをイラストレーターのソフトとかで再現しようとすると難しいんですよね。(笑)

S そうなんですよね。この混色はできないけどグラデーションで色幅を出すことはできます。私も下絵をイラストレーターでシミュレーションはしたりします。

M ラフスケッチはイラストレーターでやられているんですね。

S そうですね。割とかっちりと決めちゃっています。

Y ここのピクセルっぽいところとかも面白いですね。

S この辺のピクセルは実は元の画像が全部あって、NASAなどが出しているパブリックドメイン CC0の惑星の写真を白黒に落としてそれをドットにしています。シルクのデータを作成して版にして刷っています。

M シルクスクリーンで刷っているんですね!

 

 

S そうです。これを使って刷っています。青いところには絵の具が通らなくて、透けているところに絵の具が通る感じですね。シルクの布に感光乳剤光をぬって光を当てるとこういう風に版が作れるんです。

M シルクスクリーンも大学で勉強したんですか?

S そうですね。私の油画コースで版画の技術の授業はなかったのですが、興味はあったので教えてもらって勉強しました。元々は工業製品の大量生産のために使われていた技術でした。やはり使い回しができるのがいいです。今まで油絵を描いていた私にとって筆を持たないで絵が描けるのがビックリな条件でした。(笑)

M パッと見ただけだとシルクスクリーンかどうかはわからないですよね。

Y 私もシルクスクリーンという技法について今の話を聞いて知ることができました! 

 

 

 

絵を描くこと以外に

 

M 日々どういったものからインスピレーションを受けていますか?

S 製作しながら音楽を聴いています。ラジオとかも聞きながらとか。あとはもう自分の絵をよく組み直したりするので、自分の過去の作品を見たりします。自分から何かを得に行こうという感じはあまりなくて、ぼーっと暮らしている感じで。(笑)あとは最初インスタグラムから影響を受けたりしました。絵を描き始めた時にはインスタが流行り出していて。色の力ってすごく目を引くんだなって思いました。いい意味でも悪い意味でも。カラフルな色使いをしてみようって思いました。

M インスタグラムって良くも悪くもたくさんの刺激を受けますよね。リラックスするために何かしていますか?

S 寝るのが好きです。(笑)あとはラジオとかポッドキャストとかが好きで。最近はおしゃべりだけではなくて勉強できるのとかを聴いています。大学が講義をアップしているのを聴いたりするのが好きです。

M どういうジャンルの勉強が好きなんですか?

S さっき話していた生物学とか、あとは脳科学も好きです。絵に関係がある気がします。深く研究するよりかは「なんか面白い」っていう感覚で聴いています。あとは美術系だとエンターテイメントとしてアートが最近取り扱われていて面白いなって思います。あとはやっぱりアトリエでずっと一人で絵を描いているのでやっぱり寂しいのもあって音声を流していますね。

M 何かリフレッシュするためにしていることってありますか?

S 週の3日くらい仕事に出ていまして。先輩の画家の手伝いをしています。自分の絵も描くし、先輩の絵を幾人かで手伝ったりします。先輩の現場では黙々とした作業が多いのでちょっと瞑想してリフレッシュする感覚ですね。

Y 煮詰まらないようにもそういった気分転換って必要ですよね。

S 同じジャンルの中で気分転換ができるのって恵まれているなって思います。仕事に出かけることで人と繋がりが保てるのでそういう面ではいいです。大体同年代くらいの人たちがいるから、楽しいですね。結構作家って仲間がいるのが大事だと思います。一人でモチベーションを保ち続けるのって難しいと思っていて。同い年くらいの人たちと切磋琢磨にできて、近くにいるのっていいと思います。

Y 大変ですよね。アイデア出しから絵の完成まで一人ですからね。

S 描くまでは一人ですけど、展示になると色々な方が携わってくれるので。ギャラリーとかも作家をサポートして守ってくれるので。

 

 

抽象画について

 

S ビジュアルだけではないところにも共感してもらうのって大事だと思っているので、これからはコンセプトの伝え方を工夫したいなって思っています。

Y そうですね。コンセプトって文章を読んでもまだわからないことってありますよね。

S 抽象絵画って話しづらいというか。そこが面白さでもあり弱点でもありますね。

Y 抽象的なものだからこそ直接見ることにもっと意味があるような気がします。やはりオンラインだけだと伝わりにくいなって感じます。 

S 見にきてもらうためにどうやって興味を引くかとか、とっつきやすいワードとかあったらいいなって悩んでいるところです。

M 抽象画って難しそうってバリアを貼られてしまいがちですよね。語りづらいとか。

S 作家が説明したことしか受けとってはダメって感じになったりとか、感想をおっしゃってくれるお客様が間違ったこと言ったんじゃないかなって心配そうな顔をしていたりとか。モチーフがないってそういう意味で難しさがあります。

M 抽象画に対してもっと自由に考えて、それを他人にシェアできるようになりたいですね。なんかアートを難しく捉えすぎないで、意外となんでもありなのかもっていう感覚も大切ですよね。

S ちなみに私が使っているこのデスクは先輩の捨てられていた絵です。(笑)先輩が壁の汚れを描いた絵で、さらに私がこのうえで作業しながら汚していて。

M コンセプチュアルアートですね。

Y 何がアートになるかわからないですね。それこそなんでもアートになるような...。(笑)

S なんでもアートといえば、友達からもらった THIS IS NOT ART のスティッカーを大切にしています。(笑)

 

 

今後のこと...

 

M 今後試してみたいスタイルなど違うことやりたいといった願望はありますか?

S 昔やっていたモチーフがある絵をもう一度描いてみて今の感じと融合したらどうなるのかなって思ったりはします。すぐにはやろうとは思いませんがそういうのができたら面白そうですね。あとは、毎日少しづつでも変化して行こうという感じです。

 

 

Fin. 

 

松村咲希

カラフルな色彩を奥へ前へ行き来するようなレイヤーと立体感を複雑に持つ松村咲希の絵画作品は現実世界の風景には感じえない多次元的な景色や感覚へのイマジネーションをも膨らませます。

 

1993年長野県 野沢温泉村 生まれ。2015年京都造形芸術大学 美術工芸学科 油画コース卒業(2014 年度)。2017年京都造形芸術大学 芸術研究科 修士課程、芸術専攻ペインティング領域修了(2016 年度)。現在京都在住。2015年よりグループ展での展示を開始し、翌年京都にて初の個展を開催。それに加え2017年からは、様々なアートフェアにも参加している。受賞歴に、2014年度京都造形芸術大学卒業・修了制作展 奨励賞。ターナーアクリルガッシュビエンナーレ2017 入選。トーキョーワンダーシード2017 入選。2019年 UNKNOWN ASIA Art Exchange Osaka 2019スポンサーDPH賞、審査員Benny au賞 などがある。


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DIALOGUE WITH はアーティストとの対話の記録です。基本ノーカットで行い、編集も最小限に実際の対話のトーンや内容を残しています。
作品やプロフィールのみでは知ることのできない、アーティストの素の姿。気さくな対話から生まれる思いがけない話をお楽しみください。