DIALOGUE W/ ASUKA EO
抽象的なものから自然界にある植物、海藻や動物など幅広いモチーフをデジタル上に主にモノトーンで描くイラストレーター・デザイナー。彼女が描く一つ一つの曲線から生まれるフォルムには独自性がありながらも温かみがあり、視覚的な心地よさを人々に与える。
DIALOGUE WITH
ASUKA EO ・ 飯尾あすか
アーティスト:ASUKA EO (A)
参加メンバー:SALINA (S), MAKU (M)
インタビュー場所:作家アトリエ
背景 / FIRST THINGS FIRST
S まずは自己紹介からお願いします。
A 私は美大ではなく普通の大学を出ています。なので「なぜアートをやってるのか」とよく聞かれますが、実は私の母、祖母と祖父はアート系の活動をしていました。母は漫画家で後に、イラストレーターに転換しました。一時期作品にスクリーントーンを使っていたことがありますが、家で母に貼り方を教えてもらっていたことが背景にあります。そのような経緯で絵を描き始めていました。本当に幼い頃から描いていたんで、いつからはあまり覚えていないです。
S 幼少期からすでに絵を自然と描いていたんですね。
A 一回出版系の会社に就職していたんですが、やめてから本格的にイラストの仕事をしていきたいと思って、今に至ります。
S 母が絵を描いているのを子供の時からずっと見てきたから絵を書くのを仕事にしていきたいと思っていたんですか?
A 趣味として描くのは好きだったんですけど、どちらかというと母はそれを仕事にして苦しんだという話を聞いた
S 確かに、漫画家は締め切りとかが大変そうですよね...。
A そうなんですよね。結構生活がガタガタだったり。そういうこともあって、
作品について / ABOUT THE WORK
S Asukaさんの作品のコンセプトについて聞きたいのですが、全体的に白黒が多いですよね。抽象的な絵もある中で植物が多かったり。
A そうですね。やはり育った環境が関係している気がします。私の実家は吉祥寺なんですけど、実家から井の頭公園まで徒歩30秒でした。母とか祖父も植物とかに詳しくて歩いていると植物の名前を教えてくれたり。そういう環境で育っていることが大きいのかなって思います。
S 海藻もたくさん登場していますよね。
A 確かにそうですね。私にとって海藻も植物つながりで、基本フォルムが面白いものに引かれます。フォルムでいうと植物もそうなんですが、海藻もやはり独創的な形をしていて面白さがありますね。
M 最初から植物をモチーフとしてメインに描いていましたか?
A 最初は人物も描いていました。でも海外に行ったりしてすごく影響を受けました。フィンランドに行ったり、自分の書きたいものや自分の家で飾りたいもののバランスを考えるようになりました。自分の描きたいものは全部かいたから、自分が飾りたいものはどんなものか。そういう風に考えた時に植物にたどり着きました。もともと植物の多いところに住んでいたこともあるんですが、一人暮らしをすると植物が沢山あるところに住むのことはあまりないので、そこから作品に植物を取り入れたいという気持ちが生まれたのかもしれません。
技法 / HOW DO YOU DO IT
S Asukaさんの絵はどんなデバイスで描いているんですか?
A 実はiPad Miniで描いています。指を使って描いています。どんなに細かい作品でも指で直接描いています。
S すごいですね。そんなに細かいものも指で描けるんですね!
A 拡大すれば結構描けるんですよ。拡大することを前提にしているので、これくらい大きくして全部指で描いています。
M 面白いですね。指で全て描いているとは想像していなかったです。
A そうですね。どこにいてもタブレットさえあれば描けます。もしかしたら「指?」ってネガティブな印象を持たれるかなって思っていたんですけど、ブランドデザイナーの友達から「それがAsuka独自の有機的なラインに繋がっているのかもしれないね」って言われて確かにそうだなって思いました。
M 個人的に、ペンで描いているより指で描いている方が「すごい!」ってなります。
A 本当ですか?(笑)元々このiPad Miniを買った時はロンドンにいたんですけど、結婚記念の旅行のミコノス島っていうギリシャの離島に行くことなった時にロゴの納品が被ってしまい、パソコンを持って行きたくなかったので私がいつも使っているカバンに入るサイズのiPad Miniを買ったのがそもそもの発端でした。
S ペンと指、描くときの大きな違いってなんですか?
A ペンを使うと、間にそのものが挟まることがめんどくさくなりまして。(笑)指の先に鉛筆とかが付いていたら多分自然と指で描くと思います。あと姿勢的にいつもこういう(寝っ転がる感じ)で書いているので、ペンを使ってるとあまり筆圧が出なくて。リラックスして描けるっていう意味で指なんですかね。
S 絵を描かない身としてはデジタル上でサインとかする時に指で描く文字はものすごく下手になります。逆に指の方が楽っていうのは新鮮です。
A 確かにデジタル上のサインは難しいですよね。私もあのサインはうまく書けないです。(笑)
影響 / INFLUENCES
S 制作中に大事にしていることは何かありますか?
A 制作とは少し離れるんですが、影響を受けやすいこともあり、
M すごくわかります。自分もインスタとか見過ぎないように気をつけている部分はあります。他の人の作品を見ていると良いモチベーションになる時もあるんですけど、たまにそれがしんどく感じてしまう時もあります。
A でも、私の中で良い意味で日本っぽくない好きな作品もあります。このカレンダーを作っているのは日本の方なんですけど、これ全て手書きなんですよね。デジタルで作っていなくて365字全て手書き。
S そうだったんですね!一つずつ手書きというのは驚きですね。
A このカレンダーを手掛けた方はオランダでタイプメディアの修士課
S そういえばこのカレンダーもモノクロですね。
A そうですね。母が漫画家だというのもあって、漫画の影響を結構受けています。デジタルでテイストは全然漫画っぽくないんですけど、私のイラストって大きくするとテクスチャーが見えてきます。
M そうですよね。真っ黒のベタではないですよね。
A スクリーントーンからの影響ですね。
S Asukaさんの作品は曲線が多い印象なんですけど、モノクロの少し冷たいイメージを柔らかく表現するためなのかと思いました。
A そうですね。それはありますね。日本の伝統的なモノクロの市松模様とか結構パキッとしたイメージが強いんですけど、フィンランドに行った時に見たモノクロの作品はなぜか冷たい印象がなくて。そういうのが私の曲線にも影響していると思います。あとは基本的に真っ直線って自然界に存在しないんですよね。自然物をモチーフにすると自然に曲線が多くなっていますね。
M カラーの絵を描いてみたくなることってありますか?
A お仕事で依頼をいただいたりするときは描いています。
S モノクロの方がしっくりきますか?
A そうですね。多分私、全体的に刺激に弱くて。だから家も物が少ないんです。ものが多い所とかうるさい所はあまり落ち着かなくて。多分そういう意味で、情報量が少ないからモノクロが落ち着くっていうのはありますね。
S 普段インスピレーションはどこから得ていますか?
A 植物園に行くのが好きです。植物園にある温室も好きで頻繁に行っています。ロンドンに住んでいた時も、温室がある公園の年パスを持っていて一人で行ったりしていました。ただ温室の中で植物を見ながらニコニコするっていう。(笑)
S ロンドンはどのくらい住んでいましたか?
A ロンドンは2年くらいですね。コロナの直前でした。
S ロンドンはお仕事で?
A 私の仕事というよりは夫の仕事で行っていました。元々ロンドンに行きたいのもあったんですけどね。
S ロンドンに行きたかった理由はやはり芸術面ですか?
A そうですね。ピンポイントにロンドンという訳ではなかったんですけど、ロンドンはガーデンもあるし美術館もタダで行けることがすごく大きかったですね。
M 私も大学で3年間ロンドンにいました!Waterlooの近くに住んでいました。
A そうだったんですね!Waterloo 懐かしいですね。
M 美術館が無料っていうのは学生にとってもすごくよかったです。そういう意味でもヨーロッパ全体は国を挙げて芸術に対してすごく積極的で良いなって思いました。
A 日本の美術館の感じと全然違うような気がします。あっちでは本当に日常に溶け込んでいる感じがあって、みんなが一片に押し寄せて混むこともあまりない。「岩窟の聖母」っていうレオナルド・ダヴィンチの絵が好きで毎週金曜日はトラファルガー広場にあるナショナルギャラリーによく見に行っていました。
M 確かに、日本だと美術館に行くのってすごく「行こう!」っていう力が入って行く感じですよね。笑 ゴッホ展とか行くとものすごくぎゅうぎゅうだったりとか。
S WHITE WALL PROJECT も日常にもっとアートを取り組みたいという想いが根本にあって、かしこまったギャラリーで観るのがアートっていう概念をちょっと変えていきたいですね。
好きなもの / FAVORITES
S 今まで接してきたアーティストやアートの中で一番印象に残った人物や作品ってありますか?
A さっき日本らしさを出したくないっていう話をしましたが、どのアーティストが良いかって聞かれたら「手塚治虫」なんですよね。「火の鳥」全巻をKindleで持っていて好きなページをまとめたりしています。額装してもそのままで絵画として成立する気がします。彼の描く曲線がとても好きです。
S 1コマ1コマがアート作品ですね。漫画の小さなコマに入れているのがもったいないくらいですよね。
M 手塚治虫の絵ってどことなく海外っぽい作風ですよね。
A そうなんですよ!一周回って海外っぽいですね。トーベ・ヤンソン感もあって。デフォルメの感じなのかな。色を使うと簡単に表現できる部分も漫画特有のモノクロだと難しかったりします。そういう意味で漫画ってすごいなって改めて思います。
M モノクロなのに、色が見えてくる感じが漫画のすごいところですよね。
A そうですね。色を使わずにこんなに長い話を描く。手塚治虫はアナログで細かい表現とかを全部手で描いていたと思うんですけど、信じられないですね。
M 私も手塚治虫の作品は結構好きです。「ブッダ」とか、まだ全巻読み終わってはいないんですけど、1巻目に出てくる言葉とかセリフにものすごく心惹かれました。あと「リボンの騎士」とかも好きです。
A 「リボンの騎士」いいですよね。
M 女の子の書き方とかがものすごく可愛くて。あの何とも言えないフォルムがクセになるというか。
A そうですね。フォルムにディズニーぽさもありながら日本画とかの影響も感じさせますしね。
M その組み合わせがオリジナリティを出しているのかもしれませんね。
S 他に印象に残っている作品はありますか?
A 「こんなにシンプルで良いんだ」っていう意味で衝撃を受けたのが、Enzo Mariですね。
M Enzo Mari良いですよね!
A Enzo Mari の作品は吉祥寺の無印良品に飾ってあって、その時にそのシンプルさに驚きました。シンプルな形なのにすごく説得力があるんですよね。
M Enzo Mariの有名な動物のパズルもあって、オモチャだけど普通に欲しいなって思っていた時がありました。
A 私も子供のおもちゃに結構影響を受けています。趣味が積み木なんですけど、海外の子供のおもちゃってすごく可愛くないですか?大人でも遊びたい、飾っておきたいってなります。
S 日本のよくあるレジ・キャッシャーのおもちゃとかとは全然違いますよね。(笑)キャッシャーのおもちゃとか何か一つのことをするようにしか作られていないけど、海外のおもちゃってもっと用途が広いですよね。子供の想像力を広げるように作られている感じがします。
A あと日本のおもちゃのカラフル感もすごいですよね。虹色セットで赤ちゃんお写真が載ってて「写真はイメージです」みたいな。(笑)
S 最近、周りに赤ちゃんが産まれることが多くなってきてプレゼントを見に言ったりするんですけど、どれもすごく似たようなものばかりで。なんか海外のおもちゃってちょっと大人も楽しめるインテリア雑貨みたいで欲しくなります。
A そうですよね。欲しくなりますよね。私も廃艦になっている積み木が欲しくてメルカリで買ったんですけど、相手の方に完全に子供がいると思われて「うちの4歳の娘が楽しんでいたパズルです。お子さんにもぜひ楽しんでもらってください」と言っていただきました。本当は私が楽しむためなんですけど。(笑)
自分の時間 / PERSONAL TIME
S 絵を描いている時以外は何をして過ごしていますか?
A 新宿御苑の年パスを持っているのでそこに行ったりしています。あとは本当に積み木で遊んだり。最近はあまり行けていないんですけど、ギャラリーに行っています。入りにくいと感じることはありますけどね。
S なるほど。仕事していない時間もアートに費やす時間の方が多いんですね。
A そうですね。結局好きなんだなって。仕事で疲れたなって思っても気がついたらPinterestで資料とか探してたりすることがありますね。
S 1日の中で好きな時間とかってありますか?
A 趣味は積み木と朝ごはんってインスタに書いているんですけど、朝ごはんを作るのが好きですね。夜ご飯って作らないといけない、っていう感じがあるじゃないですか。でも作らなくても、朝ごはんってなんか許される。食べても食べなくても良い。あまり義務感がないような気がして。それで、朝ごはんにすごくこだわり始めたりして一時期ちょっと自分でもやばいなって思うくらいすごく豪華な朝ごはんを作ったりしてました。夜は仕事の時間という感じに自分の中ではなっているので、朝は割と自由に過ごしたりしていることが多いですね。
S 朝って会社に行く必要がなければ結構自由にダラダラできますよね。朝ごはんは作りたくなかったら作らなくても良い。でも夜だと食べなければいけないとか寝なければいけないとか制約がありますよね。そういう意味で朝ってリラックスできる時間なんですね。
いいアートって? / WHAT IS GOOD ART?
S Asukaさんの作品を観る人達に、こういう風に観てほしいとか感じ取ってもらいたいメッセージってありますか?
A メッセージ性を持って作品を描いているって思われることがよくあります。私の作品ってパッと見てすごくわかりやすく明るいとか楽しい感じではないから何か深いメッセージがあるのかなって思われたりするんですけど、何もないですね。(笑) 作品個々のメッセージはないんですけど、私は結構ガチャガチャしているところには疲れちゃうので、作品を観ていてリラックスできる印象にできたら良いなって思います。
S Asukaさんにとって「いいアート」って何ですか?
A 個人的に形に惹かれるところがあるので、形が好きだと「いいな」って思うことが多いです。少し趣旨が違うかもしれないですが、本当に好きなものって大人になると見つけるのが難しいなって思っています。例えば世間的に美味しいって言われているレストランに行っても、状況的には楽しいけどすごく楽しいかって聞かれると、家にいてカップラーメンを食べている方が割と良いみたいな。(笑)状況にかけているコストと自分の心の中の幸せが見合ってないみたいなことが大人になると割と良くあると思います。本当に好きなんだなって感じるのは理屈とかじゃなくて見た瞬間直感的に「あー、いいな」って思える感覚。それがすごく大事だと思います。理屈を抜きにして心から本当に「いい」、推せるなって思えるのが私にとって「いいアート」なのかな。
Fin.
ASUKA EO ・ 飯尾あすか
抽象的なものから自然界にある植物、海藻や動物など幅広いモチーフをデジタル上に主にモノトーンで描くイラストレーター・デザイナー。彼女が描く一つ一つの曲線から生まれる形にはどこか温かみがあり独自性を感じさせ、視覚的な心地よさを人々に与える。
東京都出身のイラストレーター。イラストレーションのほか、ウィンドウペイント、ロゴ、パターンデザインなど、海外のアーティストから影響を受けた繊細かつ力強いモノトーンの作品を発表。
DIALOGUE W/ はアーティストとの対話の記録です。基本ノーカットで行い、編集も最小限に実際の対話のトーンや内容を残しています。
作品やプロフィールのみでは知ることのできない、アーティストの素の姿。気さくな対話から生まれる思いがけない話をお楽しみください。